未経験から調香師を目指すなら 副業という選択肢と具体的な始め方
未経験から調香師へ 副業でステップアップするという考え方
調香師という職業に魅力を感じ、「いつかは自分も香りを生み出す仕事に携わりたい」と考える30代の社会人の方は少なくありません。しかし、異業種からの転職となると、「何から始めれば良いのか」「学習の時間や費用はどれくらいかかるのか」「本当に未経験からなれるのか」といった不安を抱くこともあるでしょう。
いきなり会社を辞めて専門学校に通ったり、全く新しい業界に飛び込むのは大きな決断です。そこで一つの現実的な選択肢として検討したいのが、「副業」として香りの世界に関わることから始めるキャリアチェンジの方法です。
この記事では、未経験から調香師を目指す方が副業を取り入れるメリット、具体的な始め方、そして知っておくべき注意点について詳しく解説します。本業を持ちながら香りの仕事に触れることで、将来のキャリアパスをより確実なものにするヒントを得ていただければ幸いです。
なぜ未経験からの調香師転職に副業が有効なのか?
副業から調香師への道を歩み始めることには、いくつかの大きなメリットがあります。
リスクを抑えながら経験を積める
本業の安定した収入を確保したまま、香りの世界に足を踏み入れることができます。これにより、経済的な不安を軽減しながら、じっくりと学び、経験を積むことが可能です。もし香りの仕事が想像と違った場合でも、すぐに本業に戻るという選択肢も残されます。
実践的な学びが得られる
座学や独学だけでは得られない、実践的な知識やスキルを身につける機会が得られます。例えば、小ロットでの香水制作、イベントでの販売、オーダーメイド香水の調香など、実際に香りを「仕事」として扱う経験は、理論だけでは学べない多くの気づきをもたらします。
業界への理解を深められる
副業を通じて、香料業界やフレグランスビジネスのリアルな側面を肌で感じることができます。顧客のニーズ、市場の動向、法規制、流通の仕組みなど、実際に業界で活動することで、転職後のイメージをより具体的に描けるようになります。
人脈を築く機会が増える
香料会社、関連事業者、他のクリエイター、顧客など、様々な人々との出会いが生まれます。こうした人脈は、将来的な情報収集、協力関係の構築、そして転職活動において大きな財産となり得ます。
自身の適性を確認できる
調香師の仕事は、創造性だけでなく、地道な作業、集中力、そしてビジネスとしての視点も求められます。副業として香りの仕事に取り組む中で、自分が本当にこの分野で長く情熱を持って続けられるか、どのような分野(ファインフレグランス、日用品、アロマセラピーなど)に関心があるか、といった自身の適性や興味を深く探ることができます。
副業として香りの世界に関わる具体的なステップ
では、具体的にどのようなステップで副業を始めれば良いのでしょうか。未経験からでも無理なく始められる方法をいくつかご紹介します。
ステップ1:基礎知識・スキルの習得を並行して行う
副業を始める前に、あるいは並行して、調香の基礎知識や香料に関する学びを深めましょう。 * 独学: 香料の図鑑や専門書を読み、様々な香りを実際に嗅いでみることから始められます。単に嗅ぐだけでなく、香りの特徴やイメージを言葉で表現する練習が重要です。 * オンライン講座・通信教育: 自宅で体系的に学べる講座も増えています。調香の基礎理論や主要な香料について学ぶことができます。 * 単発のワークショップ・セミナー: アロマセラピーやナチュラルパフューマリーなど、特定の分野に特化した体験講座に参加するのも良いでしょう。
本業の傍らでの学習となるため、無理のないペースで継続することが重要です。特に香りを識別し記憶する「嗅覚トレーニング」は日々の積み重ねが大切です。
ステップ2:小規模な活動から始める
ある程度の基礎知識が身についてきたら、まずは小さな規模で「香りの仕事」を始めてみましょう。 * ハンドメイド作品の販売: 自分でブレンドした香りのキャンドル、サシェ、練り香水などを制作し、minneやCreemaといったハンドメイド販売サイトや、地域の小規模なマルシェで販売してみる。 * SNSでの情報発信: 香りについて学んだこと、制作プロセス、香りのあるライフスタイルなどをInstagramやブログで発信し、同じ興味を持つ人々と繋がる。 * 香りのあるギフト制作: 友人や家族へのギフトとして、オリジナルの香りのアイテムを制作し、フィードバックを得る。
この段階では、大きな利益を出すことよりも、実際に自分の作った香りが人にどう受け止められるか、制作から販売までの流れを経験することを目的とします。
ステップ3:経験を積み、実績を作る
小規模な活動を通じて手応えを感じたら、少しずつ活動の幅を広げ、将来のキャリアに繋がる「実績」を作り始めます。 * オーダーメイド制作の受注: SNSなどを通じて、個人的な依頼で香りを制作してみる。ヒアリングから調香、納品までの一連の流れを経験する。 * ワークショップの開催: 自宅やレンタルスペースで、簡単な香水作りやアロマブレンドのワークショップを開催する。人に教えることで、自身の知識も深まります。 * 他のクリエイターとの連携: アクセサリー作家やイラストレーターなど、異分野のクリエイターとコラボレーションし、共同で作品を制作・販売する。
これらの活動は、将来的な転職活動や独立の際に提示できる「ポートフォリオ」の一部となります。どのような依頼を受け、どのように香りを創造し、どのような結果が得られたのかを記録しておきましょう。
ステップ4:情報収集とネットワーク構築
本業の合間を縫って、積極的に情報収集を行い、業界内のネットワークを広げましょう。 * 業界イベント・展示会への参加: 国際香料展やビューティー関連の展示会など、香料メーカーやブランドが出展するイベントに参加し、最新のトレンドや技術に触れる。 * セミナーや講演会への参加: 調香師や業界関係者によるセミナーに参加し、専門知識を深めたり、直接話を聞く機会を持つ。 * 関連企業のリサーチ: 香料会社、化粧品メーカー、フレグランスブランドなど、関心のある企業のウェブサイトや採用情報を定期的にチェックする。
これらの活動を通じて得られる情報は、自身の学習の方向性を定めたり、将来的な応募先を具体的に検討する上で非常に役立ちます。
副業で得られる経験が本業のキャリアチェンジにどう繋がるか
副業で培った経験は、将来的に調香師として本業のキャリアに踏み出す際に、強力な武器となります。
- 実務経験としての評価: 小規模ながらも香りを制作・販売した経験は、「何も経験がない」状態とは明確に異なります。特に自身で企画・制作・販売まで行った経験は、企画力やビジネス感覚があると評価される可能性があります。
- ポートフォリオの提示: 制作実績、参加したイベント、開催したワークショップなどは、具体的なスキルや創造性を示すポートフォリオとして提示できます。
- 業界知識と適性の証明: 副業を通じて得た業界知識や、香りの仕事への適性は、面接時に説得力のあるアピールポイントとなります。「なぜ調香師になりたいのか」という問いに対し、具体的な経験を元に語ることができます。
- 人脈からの情報: 副業で築いた人脈から、非公開の求人情報を得たり、業界の内部事情を知る機会があるかもしれません。
未経験からの転職では、「どれだけ本気でこの仕事を目指しているか」「入社後に即戦力とまではいかなくとも、スムーズにキャッチアップできる素養があるか」が問われます。副業での活動は、これらの熱意と素養を示す客観的な証拠となります。
副業で調香師を目指す上での注意点
副業という形であっても、香りの仕事に関わる上でいくつか注意しておくべき点があります。
- 本業との両立: 本業がおろそかにならないよう、時間管理や体調管理を徹底する必要があります。無理なスケジュールは本業にも副業にも悪影響を及ぼします。
- 収益化の難しさ: 副業で調香師としてすぐに大きな収入を得ることは難しいのが現実です。初期投資(香料、資材、容器など)も必要となるため、最初のうちは持ち出しとなる可能性も考慮しておきましょう。経済的な側面だけでなく、「学び」や「経験」を主目的と捉える姿勢が大切です。
- モチベーションの維持: 本業と並行して学ぶ・活動するのは、想像以上に大変なこともあります。強い意志と、香りの世界への純粋な探求心がないと、継続は難しくなります。
- 法規制の遵守: 化粧品や雑貨として香りを販売する場合、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)などの法規制を遵守する必要があります。特に化粧品に該当する場合、製造販売業や製造業の許可が必要になるなど、個人が手軽に行える範囲は限られています。まずは雑貨品(香りを楽しむだけのもの)や、許可が必要ない範囲での活動から始めるのが現実的でしょう。
これらの注意点を理解した上で、計画的に副業を進めることが成功の鍵となります。
まとめ:副業は未経験から調香師への現実的な一歩
未経験から調香師へのキャリアチェンジは、決して容易な道ではありません。しかし、本業を続けながら副業として香りの世界に深く関わることは、知識やスキル、経験、人脈を段階的に獲得し、将来の目標達成に向けた現実的で有効なステップとなり得ます。
「いつか調香師に」という漠然とした夢を、具体的な「行動」に移す第一歩として、副業という選択肢を真剣に検討してみてはいかがでしょうか。本業での経験と、副業で培う香りの専門性を掛け合わせることで、あなたならではのユニークな調香師としてのキャリアパスが開けるかもしれません。
まずは小さな一歩から。香りの学習を始め、身近なところから香りの制作や発信に取り組んでみてください。その経験の一つ一つが、きっと調香師になるというあなたの夢につながっていくはずです。